ITを活用した診療と個人情報保護の取り組み
当クリニックは墨田区両国に、「腎臓病などに対する人工透析」、「痛風・糖尿病などを中心とした生活習慣病の外来治療」、「訪問診療などの在宅医療」、「インターネット医療」の4つの医療分野の提供を目的として平成13年12月24日に開院した。人工透析や生活習慣病などの長期に及ぶ治療では、患者情報の取り扱いがより重要であり、積極的に情報を開示して患者と情報を共有することが何より必要と考える。IT化は、このために無くてはならないツールである。一方、4月からの個人情報保護法の施行により医療分野でも個人情報保護への取り組みが重要視されている。IT化は、個人情報の管理や利用に関しては、医療機関、患者双方にとって大きなメリットとなるが、個人情報保護の面では、一度に大量の情報漏洩の危険が増すなどリスクを伴う。
当クリニックにおけるIT化、インターネット医療を紹介するとともに個人情報保護への取り組みの一端を考えてみたい。
インターネット医療
当クリニックでは開院時より「インターネット医療」への取り組みを大きな目標として掲げている。インターネットの医療への利用は、ホームページの作成のみには止まらない。すでに多くの医療機関でホームページをみての受診例の増加が報告されているが、当クリニックでも開院時より40%以上の患者がホームページをみて受診している。ホームページの作成のコツやアクセス増加対策などはここでは割愛するが、医療相談などを通じて双方向性のメリットを患者が享受し、更に実際の受診にスムーズに結びつける仕組みが重要である。メールによる医療相談、メーリングリスト、ウェブ予約システム、検査結果報告、インターネットアンケートなどは、生活習慣病など慢性疾患の長期管理においては、実際の診療の補完として一定の役割が果たせるものと考える。
個人情報保護への取り組み
インターネット医療を行う上で個人情報の取扱は慎重にする必要がある。ホームページでの医療相談やメーリングリスト、予約、検査結果報告などに関わる個人情報の取り扱いについてプライバシーポリシー(別表1)を掲示している。ホームページの認証や信頼性確保のためJIMAeヘルス倫理コードに準拠しトラストマークを取得している。
外来では、プライバシーポリシーと個人情報の利用目的(別表2)を掲示すると共に待合室に置いた診療案内の中にファイリングして何時でも閲覧可能とした。また初診申込書(別表3)に個人データの利用目的の特定について記載した。
更に患者からの要求などの必要に応じてプライバシーポリシーや具体的な利用目的について説明を行うこととした。現時点では、個人情報保護について改めて患者への説明や同意書への署名などは行っておらず、問い合わせがあれば、個人情報保護規定により担当責任者が必要な説明を行う方針である。実際にインターネットアンケート調査における個人情報の取り扱いについて問い合わせを受けたケースが1例あった。
PCのセキュリティとしては、WindowsXPのID、パスワードと電子カルテのID、パスワードにより保護を行っている。電子カルテへのアクセスログは永久保存とした。サーバ、PCが設置されている部屋には、クリニック全体の施錠に加えて個々に施錠を行っている。受付などで個別の施錠が出来ないPCはワイヤーにて固定した。受付のモニターは、カウンター脇から覗けないよう特殊なフィルムを貼っている。電子カルテ、診療支援システム、透析中央管理システムなどの運用規定の他、PCやインターネットの利用については、院内規定を作成した。併せて個人情報管理責任者、個人情報管理委員会及び事務局、問い合わせ窓口の設置、内部監査責任者の選任、個人情報保護規定作成、就業規則改訂、誓約書、業務委託に関する個人データ取扱契約書の作成を行った。
▼別表1:プライバシーポリシー
両国東口クリニック個人情報保護方針(プライバシーポリシー) 両国東口クリニック |
▼別表2:当院での患者様の個人情報利用目的
当院での患者様の個人情報利用目的 両国東口クリニック |
▼別表3:初診申込書
IT化がもたらすメリット
IT化と言うと直ちに電子カルテ導入と短絡する傾向がある。
電子カルテは、IT化の大きな手段でありその利便性はいくつでも上げることが出来るが、紙カルテを単に電子カルテに置き換えただけでは、本当のIT化にはならないし、個人情報保護に繋がらないばかりか、情報漏洩などのリスクが高くなってしまうことになりかねない。当クリニックでの電子カルテ導入、IT化の主な目的は、情報共有とプライバシー保護である。
既にいくつかのクリニックなどで実践されているが、患者に診療記録のコピーを持って頂く方法がある。複写式の用紙などを用いて当日の診療記録や検査データなどを渡して患者自身でも保存してもらうのである。しかし手書きのカルテでは、短い診療時間内で丁寧な文字で多くの内容を記載することは困難なことが多い。
電子カルテでは、患者の訴えや診察所見、診断、治療内容などについてプルダウンメニューやIME、ATOKなどの日本語入力メソッドの辞書登録機能を利用して予め作成した文章から短時間で入力を行うことが可能である。
当クリニックでは、病名や症状に応じた診断根拠や治療方針、予後、薬の服用情報などを記載したカルテを診療時間内に作成し診療終了後にプリントアウトしたものを「本日の診療記録」として全ての患者へ渡している。
個人情報保護法においては、患者の要望があれば原則としてカルテを開示する義務が生じるため読み易く適切かつ十分に記載されたカルテを作成するためにも電子カルテは有効と考える。一方、プライバシー保護の目的でも電子カルテが有用なツールとなる。
近年、プライバシー保護の観点から中待の廃止が進んでいる。しかし殆どの診察室にはスタッフ導線と呼ばれる通路が設置されており看護師や事務職員などが診察室と遮られていない通路を行き来している。スタッフにとっては日常業務であるが患者にとっては予期しないときに見知らぬスタッフが現れることに戸惑いを感じる場合もあるだろう。また複数の診察室がある場合、通路の存在により隣の診察室の会話が筒抜けになってしまう。電子カルテや画像管理システムが導入され院内にネットワークが構築されていれば、全ての情報はネットワーク上でやり取りすることが可能となる。
当クリニックでは、電子カルテの予約システムに付属したステータスモニターを用いて受診中の患者の状況を院内各所にてモニターし指示や連絡を行うことにより診察室の完全な個室化を実現したが、日常診療において全く支障を感じてなく、診察中に医師が診察室から出ることは患者の呼び出し時を除いて殆どない。もちろん診療科目や診療スタイルによって違ってくるのでこのスタイルを皆様に勧めるものでは無いがIT化によって必ずしもスタッフ導線を配慮する必要はなく旧来の外来レイアウトを見直すことも可能であり業務の効率化に結びつけることも出来る。
クリニックにおける個人情報保護の問題点
医療機関の職員の多くは、法律で守秘義務が科せられていることから逆に個人情報保護についての関心が薄いことが多い。何となく安全であると漫然と過信している可能性があり個人情報とは何であるかから教育を始める必要がある。今後、個人情報保護委員会を中心として職員に対して適切な教育を行って行く予定である。
更にPCや情報システム・ネットワークのセキュリティの見直しや改善を行っていくことも必要であるが、クリニックにおいては、事務職員であっても治療内容などを把握している必要があり、業務区分を明確に分離し難い点があるためネットワークのアクセス権の設定などでも病院とは異なった配慮が必要とされると考える。
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