痛風治療のうそ?ほんと!ビールはダメでも焼酎ならOK?
はじめに
痛風治療を続けるなかで患者さんが、感じる疑問や質問に当クリニック痛風外来での診療経験を元にお答えするものです。 純粋な学術研究データではありませんが、約2000例の痛風・高尿酸血症の患者さんの診察や検査データ、3000例を超 える痛風医療相談の内容などに基づくものですので、それなりに信用性や客観性に高いものであると考えます。但し、患者さ ん個々の状況により異なる場合もありますので、実際の治療に当たっては必ず担当医と良くご相談の上、担当医の判断や指示 に従って下さい。
第1回 痛風は、食事療法など生活習慣の改善だけでは治らないの?
痛風の原因である高尿酸血症は、食事や飲酒などの生活習慣による影響が、2~3割、尿中尿酸排泄低下や尿酸産生過剰などの体質 的な影響が、残り7~8割を占めています。このため、禁酒やかなり厳密な食事療法を行っても血清尿酸値の下降は、1mg/dl前後となり ます。一度でも痛風関節炎(痛風発作)を起こしている患者さんの場合、関節内に既に尿酸塩結晶が溜まっているため、この尿酸塩 結晶を溶解消失させるためには、血清尿酸値を6.0mg/dl以下でコントロールすることが望ましいため、食事療法のみでこの治療目標を達 成することはかなり困難だと考えます。一方、痛風発作を起こしてない高尿酸血症の場合、血清尿酸値が7台であれば、食事療法にて十分ですし、8台でも食事療法のみでも痛風発作を抑制できる可能性があると思います。但し、血清尿酸値が9を超える患者さんでは、痛風発作の有無に関わらず薬物療法を検討することをお勧めしています。
結論として、痛風発作を起こしたことがある患者さんでは、薬物治療が中心となり、痛風発作を起こしていない高尿酸血症では、 食事療法が中心と言うことになります。
薬による治療をお望みでない方は、痛風発作を起こす前に早めの受診して管理栄養士さんから食事指導をお受けになることをお勧めします。
第2回 痛風は一生涯治療を続ける必要があるの?
第1回でお話したように痛風の原因である高尿酸血症は、その7~8割が体質的な影響によっています。そして、この体質は、 そう簡単に変わるものではありませんので、原則として一生涯の治療が必要な病気であると言わざるを得ません。
しかし、痛風患者さんは、30歳~60歳頃の方が圧倒的多く、70歳を超えると少なくなります。この理由は、尿酸産生量が、 20歳~40歳頃に増加し、その後減少することが上げられます。60歳を過ぎると尿酸産生量が低下して高尿酸血症の頻度が減少 することが報告されています。また、高齢になると免疫機能の低下により痛風発作自体を起こし難くなることも知られています。
結論として、痛風は生涯治療が必要な病気ですが、高齢になると高尿酸血症が改善されたり、痛風発作を起こすことが少な くなるため治療を中止することが可能となる可能性があります。しかし、30、40歳代の患者さんにとっては、数十年という先の長 い治療が必要ということになります。
第3回 尿酸降下薬はどのくらいの期間飲む必要があるの?
第2回で、痛風は数十年に及ぶ長期間の治療が必要だというお話をしました。尿酸降下薬の服用も基本的には長期に渡って必要と考えられます。主な尿酸降下薬であるユリノーム(ベンズブロマロン)にしてもザイロリック(アロプリノール)にしても安全に長期間の服用が可能な薬です。
尿酸降下薬の服用を開始すると血清尿酸値が低下します。血清尿酸値の治療目標は、6.0mg/dl以下ですが、急激に血清尿酸値を低下させると痛風発作を誘発してしまう恐れがあるため、通常2ヶ月間程かけて徐々に血清尿酸値を低下させ治療目標値に達するようにします。血清尿酸値が正常化しても関節内には、尿酸塩結晶が残っていますので痛風発作を起こす可能性がありますし、尿酸降下薬の服用を止めると直ぐに血清尿酸値は再上昇してしまいます。血清尿酸値を6.0mg/dl以下で良好にコントロールしていくとやがて関節内の尿酸塩結晶が溶けて無くなります。尿酸塩結晶が溶けて無くなる間での期間は、尿酸コントロールが良好でも1~2年以上かかると考えられています。
当クリニック痛風外来での治療成績でも1年間を過ぎてから痛風発作を発症する患者さんもあり、少なくとも2年以上のコントロール期間が必要であると考えています。
第4回 尿酸降下薬中止のタイミングは?
良好な尿酸コントロールを長期間続けていると関節内の尿酸塩結晶も溶けて無くなり、血清尿酸値自体も低下傾向を示します。血清尿酸値が4台や5台前半が続くようであれば、尿酸降下薬の減量も可能です。ユリノームで12.5mg、ザイロリックで50mgまで減量後も血清尿酸値が4台や5台前半で維持できているようなら、尿酸降下薬の中止が可能となる可能性があります。この場合は、尿酸降下薬を2週間程度中止して尿酸クリアランス検査を実施して、このまま服薬中止が可能かどうか判断することになります。
しかし、実際に服薬を中止出来る患者さんは少なく、更に長期に渡って服薬が必要な患者さんが多いのが現実です。服薬中止後の食事療法の継続や定期的な診察や検査が必要なのは言うまでもありません。
第5回 尿酸クリアランス検査でどんなもの? 1回受ければ良いの?
クリアランス検査というのは、主に腎臓から尿中に排泄させる物質の血中濃度と尿中濃度を測定して時間あたりの排泄機能を算出する検査のことを言います。一般的には、腎臓全体の機能を示すクレアチニンクリアランス(クレアチニンという物質の尿中排泄機能)が知られていて、良く測定されています。クレアチニンクリアランスの正常値は、80~120ml/分とされていますが、日本人では低めの方が多く、80ml/分前後に多くの方が分布しています。クレアチニンクリアランスが、60ml/分を下回ると明らかな腎機能低下と考えます。痛風・高尿酸血症の患者さんの多くは、 クレアチニンクリアランスは比較的保たれているにも関わらず、尿酸クリアランス(尿酸の尿中排泄機能)が低下していることが多いことが知られています。クリアランス検査のためには、一定時間の蓄尿(尿を溜めて頂くこと)が必要です。24時間法、2時間法、1時間法などがありますが、当クリニックでは1時間の蓄尿にて実施しています。検査全体で2時間弱ほどで終了します。
高尿酸血症の原因としては、前述の尿酸排泄低下型の他、肝臓での尿酸産生が増加している尿酸産生過剰型、2者が併発した混合型の3タイプに分類されます。血清尿酸値を低下させる薬である尿酸降下薬には、尿酸排泄促進薬と尿酸産生阻害薬の2種類がありますが、尿酸排泄低下型に対しては、尿酸排泄促進薬を尿酸産生過剰型には、尿酸産生阻害薬を使用するのが原則です。混合型に対しては、2種類の尿酸降下薬の併用が効果的です。
このように高尿酸血症の原因に応じて尿酸降下薬を選択することにより少量の薬で十分な効果を期待することができ、副作用も少なく良好な尿酸コントロールが可能となるなどのメリットが生まれます。
高尿酸血症の原因は、体質によるものが多く、短期間で変化することは殆どありませんので、一度検査を受ければその結果で数年間にわたる治療を継続することが可能です。しかし、前回でご説明したように将来、尿酸降下薬の中止など治療内容の変更をする場合に再度クリアランス検査をお受け頂くことがあります。
第6回 ビールはダメでも焼酎ならOK?
高尿酸血症を指摘されたり痛風になるとビールを飲むのを止めて焼酎に変える方がとても多いです。ビールは、高尿酸血症や痛風の一番の大敵のように言われていますが、本当にそうでしょうか。一方で、ビールなどアルコールのプリン体含量は、他の食物と比べると少ないので高尿酸血症や痛風の原因ではないという正反対の意見も見受けられますが本当に正しいのでしょうか。
最初に正解を言うと両方とも間違っています。
ビールが痛風の原因である血清尿酸値の上昇を引き起こしやすいことは確かです。他のアルコールと比べても血清尿酸値が上昇しやすいことも確かです。これは、ビールがアルコール類の中でプリン体を多く含むためと考えられています。
尿酸の元になるプリン体を、缶ビール350mlでは、約20mg含みます。これは、牛肉や豚肉100gに含まれるプリン体の約1/4~1/5の量です。この話だけを聞くと「たいしたことはないな、ビールが痛風の大敵というのは間違いなのかな」と考えてしまいます。但し、ビールは、一般的に大量に飲まれることが多いアルコールです。数リットル以上のビールを飲む方も珍しくありません。したがって、ビールのプリン体含量が少ないとは言えません。また、ビールの中のプリン体は、食物中のプリン体より吸収率が高い可能性もあります。
さらに、ここが大事なのですが、アルコールは、それ自体の分解の際に尿酸を産生し、尿中尿酸排泄を阻害する働きもあるため、血清尿酸値が上昇することが多くなるという事実があります。このため、プリン体を含まない焼酎やウイスキーなどの蒸留酒の飲酒でも血清尿酸値が上昇します。
ビールの多飲後に痛風発作を起こすことが多いのは昔から良く知られていますが、これは飲酒後に血清尿酸値が急上昇することによると考えられます。
従って、ビールも500mlくらいなら血清尿酸値をあまり上昇させることはありませんが、焼酎でも沢山飲めば血清尿酸値を上昇させてしまう可能性があります。ワインは、血清尿酸値を上昇させにくい、痛風を起こしにくいという報告がありますが、ワイン好きの痛風患者さんも多く見受けますのでいずれにしても飲み過ぎは禁物だと思います。
痛風外来
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